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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2831号 判決 1950年3月31日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人芝権四郎の上告趣意第一点について。

原審は被告人等が判示の如き賭博罪の前科があるに拘らず累ねて本件賭博行為に及んだ事跡に徴して被告人等の常習性を認定したもので被告人等の賭博をした場所が山間の僻地で他に娯楽がないとか、本件賭博をした時朝が節句に接近していた日であるとか、賭博をした場所が人家秘密の場所で附近には巡査駐在所もあるとか、また賭博の種類が馬鹿花であるとかということは被告人等の常習性を認定する妨げとなるものではない。また被告人兵頭房重は全く酩酊の上賭博をする態度(真似)をしただけで賭博をやったとは云えないという所論の主張は原判決の事実認定を非難するに帰するのである。それ故論旨は採用することはできない。

同第二点について。

原判決の確定した事実によると被告人兵頭房重は被害者兵頭登竜の左眼の部分を右足で蹴付けたのである。そして原審が証拠として採用した鑑定人森田権平の鑑定書中亡登竜の屍体の外傷として左側上下眼瞼は直径約五糎の部分が腫膓し暗紫色を呈し左眼の瞳孔の左方角膜に直径〇、五糎の鮮紅色の溢血があると記載されているからその左眼の傷が被告人房重の足蹴によったものであることは明かである。ところで被告人の暴行もその与えた傷創もそのものだけは致命的なものではないが(菊山医師は傷は一〇日位で癒るものだと述べている)被害者登竜は予て脳梅毒にかかって居り脳に高度の病的変化があったので顔面に激しい外傷を受けたため脳の組織を一定度崩壊せしめその結果死亡するに至ったものであることは原判決挙示の証拠即ち鑑定人森田権平、根岸博の各鑑定書の記載から十分に認められるのである。論旨は右鑑定人の鑑定によっては被告人房重の行為によって脳組織の崩壊を来したものであるという因果関係を断定することが経験則にてらして不可能であり又他の証拠を総合して考えて見ても被告人の行為と被害者の死亡との因果関係を認めることはできないと主張する。しかし右鑑定人の鑑定により被告人の行為によって脳組織の崩壊を来したものであること従って被告人の行為と被害者の死亡との間に因果関係を認めることができるのであってかかる判断は毫も経験則に反するものではない。又被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。されば原判決には所論の如き違法なく論旨は理由がない。なお論旨付記の当裁判所の判例は本件に適切なものでない。

よって刑訴施行法第二條旧刑訴第四四六條により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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